24 製糸工塲[# 目次では「場」となっている]

横濱開港當時、「サゲ絲」と稱して外國に輸出したのは甲州産の生絲で、これが本邦生絲輸出の嚆矢だ。明治九年には、縣營の勸業製糸工場が創設された。その後縣下養蠶業の發展と並行して製糸業は漸次擴張進展し、鐘紡、矢島、丸茂、武井、望月、堀内、田中、三浦、小田切等今や八十四工場、男女工、六千人、生産額六百萬圓に達してゐる。
版畫は矢島第三工場のバツクスタイル。乾燥室、倉庫、機關室、立ち並ぶ[# 原本では「立ら並ぶ」となっている]工場、三筋のホワイトラインを刻んだ煙突からは、黒煙濛々として甲府の空を覆つてゐる。
遠景に輝く日本南アルプスの銀嶺と、若き女性の手よりたぐり出されるシルクとのコン[# 原本では「シ」となっている]トラストは、山梨にふさはしい魅[# 原本では「味」となっている]惑的な風景の一つである。

(酒井桂次)


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