67 差出磯と龜甲橋

鹽の山さしでの磯にすむ千鳥君が御代をば八千代とぞなく。(讀人不知)
小夜千鳥空にきて鳴け鹽の山さし出の磯に波や越すらん。(忠房親王)
古來幾多の詩歌に詠はれたところ、昔は千鳥が澤山居たとか、今はその聲をだに聞くことはない。
橋は笛吹川に架せられた吊橋、右側に見える小高い所は塔の山のパノラマ臺である。この橋の右岸一帶は萬力林と稱し、平地に於ける原始林として全國稀に見る所、秩父宮殿下並にシヤム少年團、サクラメント少年團のキヤンプより一躍國際キヤンプ場に躍進した。近年根津橋も架設され、森林の一部を開發して萬力公園の施設も着々進められてゐる。近く近代化學を應用したカーボン工場が建設されるとの事であるから、加納岩、日下部一帶は一大工業地域と化すであらう。この右岸の人工文化に對し、左岸の自然の美は實にいゝコントラストを見せる事であらう。
笛吹川の上流には有名な大嶽山那賀都神社がある。

(的場信輝)


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