66 葡萄郷

富士の白雪流れてとけて甲州葡萄の……甘い葡萄の露となる。
昔から栽培されてゐる葡萄、柿、栗、桃、梨、林檎、[# 原本では改行されているため「、」がないので入れた]柘榴、銀杏の八珍果、更に最近は櫻桃、メロンを加へて、甲斐の十珍果は各方面に賞美されてゐる。
勝沼、祝は甲州葡萄の本場として昔から有名であるが、甲運、里垣、西野等は近年この方面に著るしく進展を見せてゐる。
中秋の候、棚下の黄緑葉の間から、紫水晶に似た美果が房々と垂れ下る樣は、何ともいはれぬ[# 原本では「ね」となっている]美觀である。畫の左方にあるのは葡萄貯藏庫で、この庫の中に置けば、何時でも新鮮そのまゝを味ふことが出來る魔法の倉である。

(佐藤時丸)


前頁  次頁