甲斐八珍果

勝沼や馬子も葡萄を喰ひ乍ら……
山梨は昔から果實の栽培が盛んで葡萄、柿、栗、梨、[# 原本では改行されているため「、」がないので入れた]桃、林檎、柘榴、銀杏の八種は甲斐の八珍果と謂れ世に賞美されてゐる。更に近年目覺ましく進出した櫻桃園藝は中巨摩、東八代、東山梨の三郡にまたがり盛んに生産されてゐる。氣温が急激に上昂する爲か山形、福島に比べて早きこと十五日、それが氣の早い關東人士に歡迎され、甲州櫻桃の名は高い。更に特筆すべきは温室聚落として、日本一の稱ある西野を中心とする園藝で、黒ずんだ田舍家の間にこれは又全部ガラス張りのグリーンハウスが、幾棟となく立ち並びアーリーヘボリフト、マスカツトオブアレキサンドリヤ等が盛に産出され、温室葡萄の豐醇な味覺、メロンの美しいネツトと芳香、八珍果と共に正に近代人のハートを貫くキユーピツトである。

(矢崎好幸)


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