78 くるみ人形

これは私の憶ひ出の品くるみ人形です。甲州御嶽の土産として、私が四年生の秋、甲府商工會議所の懸賞に應募したものです。
人形の頭は「くるみ」をそのまゝ利用しました。皺のあるチヨコレート色の大きな頭に、ビーヅの眼玉が光つてゐます。背は「ねむの木」の皮をそのまゝ露しました。黄色な四角に大きく切り取つたお腹が、ふつくらとしてゐます。足はチヨビツト松かさの二片で前に出し、三角形にのびた尾で、首をひよつこりかしげて何か物思ひです。
全体として古雅[# 原本では「稚」となっている]にして風味豐に、土臭い純朴さの中に、一種のユーモアをもたせるべく努力したつもりです。帝國發明協會に出品したら特選となり、金牌を戴くなんて夢のやうでした。上野不忍池の博覽會に、この版畫の小鳥を見出した時は、隨分嬉しかつたです。御嶽土産としてはこの外鈴、水晶の置物、白樺の柱掛、能三番、モザイク盆等があります。
又傳統的に勢力を有する「横澤のだるま」は「甲州だるま」と云はれ、文部省編纂「小學圖畫」のモデルともなつてゐます。

(數野孝惠)


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