3 郵便局の偉容

この版畫を見ると一見ローマの廢墟でもあるかの如き感がある。
實は昭和六年三月八十萬の巨費を投じ、近代文化の粹を集めて内容外觀共に、能率本位に建てられた時代の先端を行くモダンビルヂングである。殊に簡明なスカイラインは力強く、雄大で、明快で、單鈍化と統一による美が遺憾なく發揮されてゐる。
最も新しいものを最も古い感じに表現した所は作者の罪だが、其の偉大さに至つては正にローマ舊時の殿堂が偲ばれる。
今年から電話も自動式に改造され『モシ/\何番ですか。』[# 原本では「』。」となっている]『繼ぎました。お話し下さい。』などいふ交換孃の聲は聞かれず、僅に百十四番に其の名殘を止めて、いとも親切な電話案内をしてくれるのはうれしい事である。
小包、爲替、貯金の一切は勿論、彼と彼女のブラツシユマークも一度はこの關門を通過しなければならない。

(立川武男)


前頁  次頁